次世代の肉牛
~美水牛~

神戸ビーフ、三田牛の名産地として知られる兵庫県三田市は、豊かな自然と清らかな水系に恵まれ、この土地に根を張る肥育牛農家は、代々受け継がれてきた匠の技術と愛情で、大切に牛を育て続けてきました。 

私も幼少期より父に連れられて、肥育農家に足しげく通い、牛と過ごす時間も多く持ちました。そうやって育った私は、畜産業界と精肉業界の抱える問題点にもやがて気付くこととなり、それが私がこの仕事をする上での原体験となりました。
父の後を継いで、畜産業界と精肉業界へと飛び込んだ私は、そんな原体験をベースにして、「牛も、生産者たる肥育農家も、消費者たるお客様もすべてが笑顔で暮らせる世界(=三方良しの世界)を新しく作ること」をビジョンとして掲げました。

牛は牛肉となるまでの一生を健やかに過ごすことができ、牛の生産者たる肥育農家は、飼っている牛に対する栄養制限を行う必要がなく、対価として十分な報酬を手にすることができ、結果、肥育農場で働きたいと希望する若者が全国から殺到し、そして、消費者たるお客様は、脂肪分の取りすぎによる健康被害を気にすることなく、美味しい牛肉を堪能できる食文化を享受できるという、これまでにない新しい三方良しの畜産・精肉業界の未来を作ることでした。

私は、周りの方々の協力を得ながら少しずつ歩みを進め、肥育牛に与える水を変えることで致死率を減少させ、神戸牛にも劣らない肉質の当社オリジナルのブランド牛(美水牛)を育て上げることに成功しました。肥育過程で病気等によって死亡する牛の数が激減したのですから、肥育牛の健やかな一生に貢献できたと言ってよいと思います。つまり、アニマル・ウェルフェアに一定程度の貢献はできたものと考えております。

美水牛の特徴

黒毛和牛の脂肪の融点は、含まれる不飽和脂肪酸の量によって大きく異なり、一般的に20℃台から40℃台まで幅が非常に広くなります。その中でも、優れた和牛(但馬牛系の松阪牛など)では、17℃~20℃前後と非常に低い融点を持ち、これは人間の体温より低いため、口の中でとろけるような食感を生み出す要因となります。対照的に、飽和脂肪酸が多いと融点が高く(40℃〜50℃程度)、人間の体温では溶けないので、口の中で固まってざらつく原因になるのです。焼肉用等のお肉を買った時についてくる「牛脂」などが、飽和脂肪酸を多く含む脂肪の典型例です。

これに対して、当社オリジナルの分ランド牛である美水牛の脂肪の融点は、わずか12.6℃(平均値) と極端に低く、美水牛と同じ但馬牛系の松坂牛等の脂肪の融点(17℃~20℃前後)と比較しても、さらに低くなっています。

脂肪融点が低いと、脂肪が溶けた形状が水のようにサラッとなります。フライパンで美水牛のお肉を焼くとすぐに理解できるのですが、従来の和牛のお肉と比較すると、解けた脂肪がまるで水のようにサラッとしているのです。世の中的に美味しいとされるサシがしっかりと入った霜降り肉(A5等級などの高級肉)のステーキを2,3切れ食べたら胃が持たれてこれ以上食べれなくなった経験を持つ人は少なくないでしょう。脂肪融点が17℃~20℃前後と非常に低いと言われる松坂牛等の高級霜降り肉でさえ、すぐに胃もたれしてしまうほどの脂肪の持つ粘性は高いのです。

ところが、脂肪融点が12.6℃(平均)の美水牛の脂肪分は、水のようにサラッとしているので、どれだけ食べても胃もたれしません。見た目は、他の高級ブランド牛と同じように美しい霜降り肉であるにも関わらず、舌触りが赤身肉のように軽やかなので、いくらでも食べれてしまうのです。「お肉をお腹いっぱい堪能したい、でも、すぐに胃が持たれてしまう。」という食通の方にはぴったりのお肉が美水牛なのです。

また、この脂肪融点の低さは、食べ疲れしないという特徴を持つにとどまりません。まだ外部研究機関等によるエビデンスは取得できておりませんが、人間の血管を詰まらせる原因の一つである動物性脂肪の凝固の問題を和らげるものと私どもは考えております。つまり、人間のウェルフェア(成人病等の予防)にも貢献できるのではないかと思料しております。

美水牛は脂肪融点が低いだけではありません。美水牛は、脂肪酸組成に関して、味評価にプラス要素となる不飽和脂肪酸やオレイン酸の比率は、黒毛和牛種平均よりもやや高いため、風味が良好であると考えられます。

また、コク、まろやかさに関連するペプチド構成アミノ酸総量に関しても、黒毛和牛平均よりも多くなっていますので、コク、まろやかさにおいても、美味しく感じて頂けるものと思われます。

加えて、ジューシーさについては、加熱損失が黒毛和牛平均よりもやや低いので、加熱時の肉汁の流出が低いと考えられ、私どもの「沸かす」技術で美水牛を食せば、肉本来の美味しさを堪能できるのが美水牛だと言えます。

出典:厚生労働省 登録検査機関 B社による「牛肉食味評価分析 対比評価報告書」

※グラフ中の「検体」は当社ブランド牛「美水牛」であり、評価試験の結果、美水牛の脂肪融点が低い(縦軸)ことから、口当たりがよくまろやかで、オレイン酸比率が高い(横軸)ことから、脂の甘味、香りが良好であると言えます。

以上のことから、当社オリジナルのブランド牛「美水牛」は、健やかに育った牛であり、霜降り肉の見ための美しさを纏いつつも、脂肪融点が低いために食べ疲れしない、また、人の健康にも貢献できる可能性が高く、食して美味しい牛なのです。我々が目指す三方良しの世界を実現する奇跡の牛と言っても過言ではありません。

美水牛が
デファクト・スタンダード
となる世界へ

その美水牛は、当社が委託する外部の肥育牧場にて200頭弱を飼育しておりますが、まだまだ広く市場に流通させるだけの肉量を確保できておりません。毎月2頭分の美水牛を加工しているに過ぎませんので、美水牛の考え方に共感頂いている一部のホテルやレストランで使って頂いているだけという状態です。

まだまだ、生産数量が僅少な美水牛については、今後は、私どもの考え方に共感して頂ける外部の肥育農家様を広く探索中であり、そういった外部の協力肥育農家様を巻き込みながら、「アニマル・ウェルフェアを実現する健やかな牛」である美水牛の供給量を増やしていきたいと考えております。

「牛にも、生産者にも、消費者にも嬉しい美水牛」が広く世の中に認知され、神戸牛や松坂牛等に変わって「美味しい牛肉」のデファクト・スタンダードになれば、業界を支配している「牛肉のランク付けのための評価システム」自体を変えることが可能となるかもしれません。そうなれば、私たちが問題と考えている「ビタミン群の摂取制限を行って、無理にサシを入れる」ことをしない世界を実現できるかもしれないのです。ここまで実現できれば、肥育牛のアニマル・ウェルフェアをさらに前進させることになります。

なお、私どもの「沸かし屋」では、少量ではありますが、美水牛を提供させて頂くこととしました。ご興味のある方は、店内メニュー冊子をご覧になって、ご注文頂ければ幸いです。

廣岡誠道

沸かし屋店主 
                    廣岡誠道(ひろおかせいどう)